
「セクシャルウェルネス(Sexual Wellness)」という概念は比較的新しいものですが、その起源は医学・心理学・社会学・フェミニズム運動などの多様な分野にまたがっています。ここでは、セクシャルウェルネスがどのように生まれ、広がってきたのかを解説します。
1. WHOによる「性の健康(Sexual Health)」の概念化
1970年代:性の健康が公衆衛生の議題に
セクシャルウェルネスの基礎となる「性の健康(Sexual Health)」の概念は、1970年代に世界保健機関(WHO)が提唱し、公衆衛生の重要な課題として認識されるようになりました。当初の焦点は、性感染症(STI)の予防、リプロダクティブ・ヘルス(生殖の健康)、性教育 などに置かれていました。
1990年代以降:性の健康の定義が拡大
WHOは1990年代に入ると、性の健康は単に病気の予防だけでなく、身体的・精神的・社会的な幸福の一部である という考えを強調するようになります。1999年には以下のように定義されました。
「性の健康とは、単に疾患や障害がないことを指すのではなく、性に関してポジティブで尊厳のあるアプローチを持つことを意味する」
この定義は、セクシャルウェルネスの概念へと発展する基盤になりました。
2. ウェルネスブームとセクシャルウェルネスの誕生
2000年代:ウェルネス産業の成長
2000年代に入ると、「ウェルネス(Wellness)」 という概念が急速に広まりました。ウェルネスは、単なる健康管理ではなく、積極的に心身の健康を高め、より良い生活を目指すライフスタイル を指します。これには、フィットネス、メンタルヘルス、マインドフルネス、オーガニックフード、スキンケアなどが含まれ、「性の健康」もこの流れの中で再評価 されました。
2010年代:セクシャルウェルネスという言葉の普及
2010年代に入ると、特に欧米で「セクシャルウェルネス(Sexual Wellness)」という言葉が使われるようになりました。この背景には、以下のような動きがありました。
- フェミニズム運動の発展:女性の性的権利や、ポジティブなセクシュアリティの追求が進む
- LGBTQ+の権利向上:多様な性のあり方を尊重する考え方の広がり
- マインドフルネスの流行:心と体の健康の統合的なアプローチ
- セクシュアルウェルネス産業の成長:フェムテック(Femtech)や高品質なアダルトグッズの普及
これにより、「セクシャルウェルネス」は単なる性の健康を超えて、より広いライフスタイルの一部として認識されるようになりました。
3. セクシャルウェルネスの現代的な定義
WHO(2015年)の定義
2015年、WHOは「性の健康」についてさらに発展した定義を提唱しました。
「セクシュアルウェルネスとは、性に関する積極的で健康的なアプローチを持ち、性的な関係の中で身体的・精神的・社会的に満たされた状態を維持することを意味する」
この定義には、自己決定権・性的な安全・ポジティブなセクシュアリティ・同意の重要性 などが含まれており、セクシャルウェルネスの概念として現代的に確立されました。
2020年代以降:デジタル化とセクシャルウェルネス
現在、セクシャルウェルネスはさらに多様な形で発展しています。
- フェムテック・セクステック(女性向け健康テクノロジー、セクシャルウェルネス関連アプリなど)の成長
- オンラインでの性教育(YouTubeやSNSを活用した性に関する情報発信)
- メンタルヘルスとの統合(性に関するストレスやトラウマのケア)
このように、セクシャルウェルネスは医療や学術の枠を超えて、ライフスタイルの一部として定着しつつあります。
4. 日本におけるセクシャルウェルネスの現状と課題
日本ではまだ浸透していない
欧米では、セクシャルウェルネスが一般的な概念として定着しつつありますが、日本ではまだ十分に普及していません。その背景には以下のような要因があります。
- 性教育の遅れ → 「避妊や病気予防」中心の教育で、ポジティブな性の捉え方が欠如
- 性の話題のタブー視 → 公的な場やメディアで性に関する議論が少ない
- 女性のセクシュアルウェルネスの軽視 → フェムテックの認知度が低い
- メディアの影響 → 性に関する話題がセンセーショナルに扱われがち
日本での今後の展望
- 「性生活=生活の質(Quality of Life)の一部」という認識の広がり
- フェムテック・セクステック産業の成長
- オンラインでの正しい情報発信の増加
これらの変化を通じて、日本でもセクシャルウェルネスが普及する可能性がある でしょう。
まとめ
時代 | セクシャルウェルネスに関連する動き |
---|---|
1970年代 | WHOが「性の健康(Sexual Health)」を提唱 |
1990年代 | 性の健康の定義が拡大(ポジティブな視点の強調) |
2000年代 | ウェルネス産業の成長、性の健康への関心の高まり |
2010年代 | 「セクシャルウェルネス」という言葉が普及、フェムテック・LGBTQ+の影響 |
2020年代 | デジタル化、メンタルヘルスとの統合、日本ではまだ発展途上 |
セクシャルウェルネスは、単なる「性の健康」を超え、心・体・社会とのつながりを重視した新しい概念へと進化してきました。
今後、日本でも「性生活の向上=人生の質の向上」という認識が広まることが期待されます。